寝たきりからの回復を目指すヒューマニティケア

2020年より、桜十字では患者さまの自立を支援する
リハビリテーション看護を導入しました。

桜十字の自立支援型看護

2025年には、団塊の世代生まれの方々が75歳を迎えます。超高齢社会を目前に、これから必要とされるケアは、患者さまの生きる力を引き出すためのものでなくてはなりません。患者さまの尊厳を大切に、患者さま本来の力を引き出し、自立を支援するこの看護を「ヒューマニティケア」と名付け、患者さまの「生きるを満たす生活支援」に取り組んでまいります。

2025年までに全ての看護師・ケアワーカーがヒューマニティケアを習得し、患者さまへのケア提供・実践することをめざします。

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ヒューマニティケアの取り組みや技術を全国に向けて発信しています。

ヒューマニティケアとは

寝たきりや意識障害、認知症などの患者さまが生活行動を「可能な限り自分でできるように」支援することを目的とした、NICD(Nursing to Independence for the Consciousness Disorder and the Disuse Syndrome Patient)という看護技術を取り入れたケアです。日常生活回復看護とも呼ばれるNICDは、いわゆるリハビリテーション看護。身体調整看護技術・身体解放看護技術・生活行動再獲得看護技術という3つのコア看護技術を用いて生活行動の回復を促し、日常生活動作の回復を目指します。さらに、口から食べるプロジェクトの手技・評価やリハビリの技術を組み合わせ、当院の患者さまにフィットしたケアの提供を目指します。

3つのコア技術と7つの生活行動

1身体調整看護技術
生活リズム調整と栄養改善により、動ける身体の基礎づくりを行います。主に生活リズムの調整と、栄養改善に重点を置いた看護技術により、「動ける身体」を整えます。
2身体解放看護技術
身体のねじれや拘縮を予防改善し、動くための身体をつくります。生活行動の基本となる抗重力姿勢(座位・立位)の姿勢を取るためにも、拘縮の予防・改善は欠かせません。
3生活行動再獲得看護技術
脳神経機能を活かした行動を引き出す看護技術です。五感を使って繰り返し動作を記憶させる・記憶を呼び戻す技術により、生活行動を回復させます。

ヒューマニティケアを読み解くキーワード

サーカディアンリズム
人の体内時計は25時間周期。朝、陽の光を浴びたり、起きる姿勢を取ったり、決まった時間に食事をしたりすることで、体内時計が一日のサイクルに修正されます。しかし、長期寝たきりでいると修正される機会を失い、本来の25時間周期のまま一日の生活リズムからずれていってしまいます。ヒューマニティケアではリズムを整え、日中の覚醒を良くしていきます。
離床
離床とは、ベッドから起き上がることです。正確には仙骨を立てて起き上がり、頭を頸椎の上に乗せた状態を言い、座位・立位といった姿勢となります。この状態も、サーカディアンリズムを修正するスイッチの一つです。また、離床するだけでも全身の筋力を使う全身運動となり、筋力をつくる活動になります。離床は全ての生活行動の基本となります。
姿勢
私たちは、生活行動のためにさまざまな姿勢を取っています。安静時には寝る姿勢、活動時には立つ・座る姿勢を取っており、活動時は重力に拮抗する力を使って姿勢を保っています。しかし、長期間寝たきりでいることで、活動するための力(筋力)が弱まったり、筋肉が固くなって動かせなくなったり、ねじれや傾きが出てしまうと、日常生活を送りづらくなります。
用手的微振動
痛みのない拘縮改善のため考案された手技です。拘縮改善には筋膜の癒着を改善する必要がありますが、押す・伸ばすといった刺激による筋膜リリースは筋肉や骨が脆弱になっている方にとって危険が伴うことがあります。手のひらでリズミカルな振動を与えることは血管を拡張させ、リラクゼーションにもつながります。また消化・吸収の促進と便秘の改善にも有効です。
バランスボールの
ムーブメントプログラム
身体運動の獲得と関節可動域の拡大を図る目的で開発された看護技術。バランスボールを活用し、運動と呼吸を組み合わせて楽しく安全に行います。バランスボールを使用することで運動動作の補助や増幅、色の視覚刺激も見込めます。一連の運動はストレッチ効果や骨や関節の並びを整える効果があり、発声や食事等に必要な呼吸筋に働きかける運動も可能です。
温浴療法
水圧の刺激や血管拡張による血液循環の改善、温熱効果による血管拡張・痛みの閾値の向上、筋力の変化、代謝の改善、コラーゲンの進展性(皮膚の丈夫さや筋肉のしなやかさに関わる)の上昇といった効果が期待されます。適正な温度や時間を守って温浴療法を行うことで、副交感神経を優位にし、リラクゼーションを促します。
ナーシングバイオメカニクス
骨格や筋肉の機能と構造に従った自然な動きを活用した介助方法を行うことで、介助される側・する側ともに負担を最小限に抑えられます。そのためボディメカニクスを活用した介助方法は、怪我のリスクも抑えられ、安全面にも優れた方法と言えます。在宅復帰後のご家族の介助にも役立ちます。

ヒューマニティケアの活用

ヒューマニティは、下記のような患者さまの生活行動を拡大する効果が期待されます。

  • 寝たきりの患者さま
  • 拘縮のある患者さま
  • 認知症の患者さま
  • 遷延性意識障害の患者さま

ヒューマニティケア実践例

桜十字の自立支援型看護、ヒューマニティケア(NICD)を用いた実践例をご紹介します。

1. 長期のミトン着用で左手が拘縮してしまった状態
2. 左右とも10分間の手浴・詰め物をした手袋を握って頂きました。
3. 二日目には、ご自分での手浴にも挑戦していただきました。
4. 三日目には、お茶碗に手を添えられるようになりました。また、指が開くようになりました。

他にもこんな例があります。

  • 2年間の寝たきりだった患者さまが、拘縮改善と端座位訓練により、車椅子に座れるようになった。
  • 寝たきりの患者さまの尖足(拘縮がかなり進んだ状態)改善により、歩行訓練ができるまで回復。
  • 全介助だった寝たきりの患者さまが、移乗動作訓練によりトイレで排泄できるようになった。
  • 根気強い口腔ケアにより、患者さまが笑顔を取り戻した。
  • 離床と腸ぜん動の促進により、下剤が不要になり自然排便できるようになった。

当院の取り組み

当院の目標は、2025年までに全ての看護師・介護士がヒューマニティケアを習得し、患者さまにケアを提供できることです。
そのために、2020年よりスタッフ教育のコアとなるスタッフの育成をスタートしました。

集中的に技術を獲得

2025年までにすべての看護師・介護士がヒューマニティケアの技術を獲得し、実践できること。20回に及ぶ周知会を通じて、その目標と目的を看護部全員に告知しました。その中から、初期コアメンバーとしてヒューマニティケアに取り組み、やり抜く熱意を持ったスタッフを選考により選抜。エキスパート生として、自立回復を促す看護を学びます。2021年7月現在、第二期エキスパート生が学んでいます。

日本ヒューマン・ナーシング研究学会による講演・オンラインセミナー

NICDを考案した筑波大学名誉教授 紙屋克子先生らによる日本ヒューマン・ナーシング研究学会のオンラインセミナーを受講しています。

実技

日本ヒューマン・ナーシング研究学会のオンラインセミナー内での実技研修に加え、当院の理学療法士等専門職もナーシングバイオメカニクスや呼吸介助などの専門分野をレクチャー。

院内での実践報告

エキスパート生としての学びの締めくくりとして、実践報告を実施。1~2か月間取り組んできたNICDの実践例を報告しました。


受講生の声

桜十字の自立支援型看護、ヒューマニティケア(NICD)を実践したエキスパート生の声をご紹介します。

  • 拘縮や尖足となったものは二度と改善しないものと思っていましたが、機能改善ができる看護があると知りました。
  • 看護学生のときに習う、「尊厳」を大切にする看護だと思いました。原点に返ってがんばりたいです。
  • はじめはコミュニケーションが回復するとは思っておらず、患者さんが話し始めたことにとても驚き、感動しました。
  • どうしたらできるか、あきらめずに考え続けることが大切だと気付きました。
  • 患者さんの生活行動回復は、介護職である自分にとってもモチベーションを与えてくれるものだと感じました。

動画で見るヒューマニティケア

当院のヒューマニティケアの取り組みを動画で分かりやすく解説しておりますので是非ご覧ください。

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参考文献

日本ヒューマン・ナーシング研究学会編書, 意識障害・寝たきり〔廃用症候群〕患者への生活行動回復技術(NICD)教本, メディカ出版, 2015
紙屋 克子(監修・執筆)・原川 静子(執筆), ナーシングバイオメカニクスに基づく自立のための生活支援技術 よくわかる基礎技術から高度な実践技術まで 第2版, ナーシングサイエンスアカデミー, 2006